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 浴室にて  第3話   ”東京×3×6計画”

2015年09月08日 10:16 by uki0809
2015年09月08日 10:16 by uki0809

 

今月7月8日付の"TOUSEI SHINBUN(※注釈1)の朝刊一面右下のMr.Hurekawaの記事にこうあった

”女優でエロティシズム研究でも知られるナシェル・カレンコットは先日の戯曲”モナース・ヴィジョン"(※注釈2)の東京公演にてアヌーク・エーメを彷彿とさせる妖艶さを見せた。彼女自身がここ13年間に渡る研究”性的衝動を引き起こす感電性とは何か。こういう退廃的な戯曲における抽象的な表現と具象的表現の間に生ずる危険な関係とは”で解明した要素をセリフや仕草、その劇場のエアコンデイショナー、音楽や座席、劇場スタッフやチケット、売店に於けるパンフレットや飲食物(※注釈3)、特に化粧室に組み込みこの4日間の公演の間絶えず稼働させたのだ。彼女は人類に於ける背中の汗を数多ある媚薬よりも有効であると戯曲の序盤に語った。”

2027年の7月、東京、西新宿はハイアットリージェンシー東京の8階アトリウムスイート(※注釈4)。東京、東京、東京。

私は先ほどから首の左耳元が非常に痛む。ナシェルが飼っていルエレザイナという種類のクモ(※注釈5)に 咬まれた。東京、東京、東京。

大体朝8:50頃から衛星放送ではヨーロッパ、特にブダペストやウィーン、ドレスデンの風景とともに壮大な管弦楽が流れる(※注釈6)。昨夜、つまり今から5時間半前の3:30頃はグレートバリアリーフ,ミクロネシアの豊富な色彩を得た海中が流れる。東京、東京、東京。

ナシェルはこの部屋のバスルームにて熟睡している。昨夜はグラスに注いだワイン(※注釈7)がすべて口角からこぼれる始末でありベッドは酸化したワインの臭いで非常に近寄りがたい。恐らく彼女の唇に付着したワインの水滴が乾燥、酸化しているため蛇口をひねり水を口に含みつつ洗い流すことであろう。東京、東京、東京。

"咬まれる。快楽と苦難の両方を醸成している。その際に非常に重要になるのは毒の有無であり、その毒が安全圏内の毒であるか、死に至る、あるいは皮膚や血液中に異常をもたらす、神経系に障害をもたらすような毒なのかで咬まれることが快楽であるか苦難、絶望であるかが決まっていくというのが定説であるようだ。だが安全圏内の毒よりも非常に危険な毒を選ぶ人種の熱は猛威を奮う。クレオパトラはアントニウスを想い毒蛇で自死を。" 彼女の原稿にはこうある。つまり彼女は意図的にルエレザイナに指示し私の左耳元を咬ましたのだ。東京、東京、東京。

バスルームに侵入した私は耳元の微量の血を洗い流し存在に気づいた彼女に訴えかけた。”非常に痛む” すると彼女は私の耳元を吸い上げる。これも計画の内であろうか? ワインの水滴が酸化しへばりついた唇の薄い乾燥した皮膚の感触が感じられる。これも計画の内か? もうすでに彼女の居る浴槽には水分が無く、私の冷や汗と蛇口から流れた水分が溜まっていく状況である。これは計画の内である。東京、東京、東京。

 

注釈※1...TOUSEI SHINBUN:日本語”東晴新聞、2019年創刊。東京都民の69%が愛読している新聞であり靖国通りをよくセシルカットの18歳から23歳ぐらいの女神たちが販売しております。

注釈2...モナース・ヴィジョン、20世紀初頭にジャン・コクトーとリュイ・モレスが共同で書いた未完の戯曲。ナシェル・カレンコットが2017年に補完し新装したパリのテアトロ・シャンゼリゼにて公演。東京公演以降はモスクワ、アゼブバイジャン、プエルトリコ、ブエノス・アイレス、そしてエジプトでの公演が予定されている。クレオパトラが道化師オーギュストとの賭比べ、そして一夜を描く。日本における地獄太夫と一休禅師と双璧を成す物語である。

※注釈3...飲食物、料理は鱸のフリットとトマトソースやハトとレンズ豆とフォアグラのテリーヌ、バケット。飲料は赤、白、カヴァなどグラス、ボトル。ボックス席だとコース料理も楽しめる。

※注釈4...東京都新宿区西新宿2-7-2,旧ホテルセンチュリーハイアット、旧センチュリーハイアット東京。あのあたりはタクシー運転手でも間違えるほどの高級ホテル街であります。

※注釈5...2016年にベネズエラで発見された種である。ルエレザイナとはベネズエラの神話における豊穣の女神の名である。因みにオルケスタ・ルエレザイナというコンチネンタルタンゴオルケスタが1950年代初頭に短期ながら活躍していたようです。

※注釈6...国営放送の深夜の衛星放送とエキゾチックの濃密な関係性についてはいずれまた。

※注釈7...因みにだがグラスワインを飲むときに損得を考えるのは如何なものか?


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