化粧室。女性が使用することを主にし、そう呼ぶことにします。
女が化粧を直す、手を洗う。用を足す。だけでなく密談や密会、或いは情交の場でも良いでしょう。
それらに適しているのです。重要なのは便座にウォシュレットが付いているかいないかではなく鏡と照明であると思うのです。
まず照明。私が知っている限りのコンビニエンスストアやいわゆるシネマコンプレクス(シネコン)の化粧室を見てもわかるように照明の冷たさがひしひしと感じるのです。
SFに於けるテクノミュージックとはまた異なる味気ない無機質さ。
あれは耐えられない。
しかし私が知っている限り古い地下にある映画館やラウンジで軽食をとれるようなホテル、喫茶店に於ける化粧室の照明はオレンジ色がかかった光。"暖かさを感じる"という感想はもう聞き飽きたぐらいで。
私はあの白熱灯が化粧室にモダンを彩色している、そして妖艶、淫靡さを放つ原因なのではと思うのです。
さらに手洗いには鏡があるのです。四角、円形と様々でしょう。
ただ写すのは化粧室にいる者なのです。化粧室の鏡の前でぐらいはナルシスムを解放してはいかがだろうか。
と思うのです。特に化粧を直す女性の美しさたるや。
いわば女優のようですよ。
つまりオレンジ色がかかった照明とそれを反射する鏡、あの少し窮屈に思えるくらいの小部屋でなければその独特な美しさは出ない。と思うのです。
最後に、かつてバンドネオン奏者で小説家でもあったゴレス・デレシアン(1923-1967)は肺ガンで亡くなるまでに書いた五作の物語に於いて必ず化粧室を重要視していた。
特に1947年に書いた"女優の小部屋"は最初から最後まで化粧室で繰り広げられる男と女によるエロチシズムなチェスと心理戦の話なのです。ちなみに彼の著作物は当然日本語訳されていなく、もっというと本国キューバでも初版以降出版されていない。
かれの存在自体ももうだれも知らないのです。ではまた。
text by 篠澤地充三(シノザワチジュウゾウ)
読者コメント